保育所の収支は、①利用定員で決まる単価、②実際の在籍(利用率)、③人件費の3つでほぼ決まります。公定価格は子ども1人あたりの月額で支払われ、単価は利用定員の区分が大きいほど低くなります。そのため、在籍が利用定員を下回ると収入が減り、職員配置を大きく変えられない分、人件費の比率が上がって収支が悪化します。
公的な調査でも、この構造がはっきり表れています。こども家庭庁の経営実態調査(令和5年度決算)では、私立保育所の収支差率は3.2%、人件費比率は73.3%でした。福祉医療機構(WAM)の分析(2024年度)では、赤字施設の利用率は90.7%で、黒字施設の97.9%より7.3ポイント低く、人件費率は赤字施設が80.0%、黒字施設が69.9%でした。
全国の保育所等の定員充足率は令和8年4月で87.7%と下がり続けており、利用率の管理は多くの園の課題になっています。この記事では、公的な資料の数字を使って、収支の見方と打ち手を整理します。公定価格の構成は公定価格の仕組みで説明しています。
1. 公的な調査で見る保育所の収支
こども家庭庁の経営実態調査(令和5年度決算)
こども家庭庁「令和6年度 幼稚園・保育所・認定こども園等の経営実態調査 集計結果」(令和7年6月掲載)は、令和5年度決算を対象にした調査です。私立保育所(集計2,678施設、平均利用定員90.6人、平均児童数90.3人)の1施設あたりの収支は次のとおりです。
| 項目 | 金額(千円) | 収益に対する割合 |
|---|---|---|
| 収益計 | 146,480 | 100.0% |
| 人件費 | 107,300 | 73.3% |
| 事業費 | 14,356 | 9.8% |
| 事務費 | 14,691 | 10.0% |
| 費用計 | 141,792 | 96.8% |
| 収支差 | 4,688 | 3.2% |
収益と費用には、延長保育・一時預かり・地方単独事業なども含まれます。同じ調査では、私立保育所の常勤保育士1人あたりの給与月額(賞与の1/12を含む)は34.1万円、平均経験年数は11.4年でした。
注目したいのは職員配置です。私立保育所の保育士は、公定価格の基準では11.8人のところ、実際には15.4人配置されていました。多くの園が基準を上回る職員を置いて運営しており、その分が人件費比率を押し上げています。
WAM の経営分析(2024年度)
福祉医療機構のリサーチレポート「2024年度 保育所・幼保連携型認定こども園の経営状況について」(令和8年3月27日)は、WAM の融資先のうち開設1年以上の認可保育所5,590施設(公立を含まない)を分析したものです。
| 年度 | 2019 | 2020 | 2021 | 2022 | 2023 | 2024 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 赤字施設の割合 | 21.6% | 20.9% | 26.1% | 26.7% | 23.1% | 18.0% |
| 利用率 | 99.7% | 98.2% | 98.2% | 97.5% | 96.9% | 96.6% |
2024年度は、保育士等の人件費の引上げ(10.7%)もあって赤字施設の割合が下がりました。一方で、利用率は6年続けて下がっています。
黒字施設と赤字施設の違い
同じレポートで、黒字施設と赤字施設を比べた結果です。
| 指標 | 黒字施設 | 赤字施設 |
|---|---|---|
| 施設数 | 4,584 | 1,006 |
| 利用率 | 97.9% | 90.7% |
| 利用児童単価(児童1人1月あたり) | 150,039円 | 140,206円 |
| 人件費率 | 69.9% | 80.0% |
| サービス活動増減差額比率 | 8.6% | ▲4.4% |
| 療育支援加算の算定率 | 67.1% | 60.8% |
| 障害児保育加算の算定率 | 44.3% | 38.6% |
赤字施設は、利用率が低く、児童1人あたりの収益も低く、その結果として人件費率が高くなっています。在籍の確保と、取れる加算を確実に取ることが、収支を分ける2つの要素だと読み取れます。
2. 収入の側:単価は「利用定員」で決まる
公定価格の基本分単価は、施設の所在地の地域区分、利用定員の区分、認定区分、年齢区分、保育必要量区分で決まります。ここで押さえておきたいのは次の2点です。
- 適用されるのは、認可定員ではなく利用定員(市町村の確認を受けた定員)
- 定員が大きくなるほど、子ども1人あたりの単価は下がる構造
単価は各定員区分の上限の定員数をもとに算定されているため、利用定員と実際の在籍が離れていると、施設が受け取る収入は想定より少なくなります。こども家庭庁は令和7年度に、この乖離を縮めるため、定員60人以下の区分を5人刻みに細分化しました(20人まで/21〜25人/26〜30人/…/56〜60人。61人以上は10人刻み)。
収入を月単位で見るときの注意
- 主任保育士専任加算などの特定加算は、加算額を各月初日の利用子ども数で割って単価に加える仕組みで、在籍の人数によって1人あたりの額が変わる
- 年1回の加算(施設機能強化推進費加算、第三者評価受審加算、保育ICT推進加算など)は3月にまとめて入る
- 処遇改善等加算は賃金改善に充てる分なので、収支差の計算では「使途が決まっている収入」として分けて見る
処遇改善等加算の区分と使い方は、保育の処遇改善等加算で詳しく扱っています。
3. 在籍の側:定員充足率は下がり続けている
こども家庭庁「保育所等関連状況取りまとめ(令和8年4月1日)」(暫定値)の数字です。
| 項目 | 令和8年4月1日 | 前年比 |
|---|---|---|
| 保育所等の定員 | 3,016,417人 | ▲12,865人 |
| 利用児童数 | 2,646,756人 | ▲31,661人 |
| 保育所等数 | 40,046か所 | +71か所 |
| 待機児童数 | 2,435人 | +181人 |
定員充足率(全国)は、令和4年4月の89.7%から、令和8年4月には87.7%まで下がりました。地域差も大きく、令和3年4月から令和8年4月までの5年間で、都市部は93.0%から90.9%(▲2.1ポイント)、過疎地域は81.3%から72.7%(▲8.6ポイント)に下がっています。
申込者数も、令和2年の2,842,208人をピークに減り続け、令和8年は2,729,681人でした。市区町村の実施計画の集計では、2025年から2029年の5年間で申込者数は約9.5万人減る見込みです。厚生労働省の人口動態統計(令和7年、概数)では、出生数は671,236人で過去最少でした。
こども家庭庁は「保育政策の新たな方向性」(令和6年12月20日)で、人口減少下で持続可能な保育提供体制を確保することを掲げています。令和8年度には、過疎地域など特別地域にある利用定員20人・利用子ども数15人以下の保育所などを対象に、特別地域保育体制確保対応加算も創設されました。
4. 支出の側:人件費をどう見るか
人件費は収益の7割前後を占めます。人件費比率を見るときは、次の3つを分けて考えます。
| 要素 | 見るポイント |
|---|---|
| 配置の人数 | 年齢別の配置基準と、基準を上回って置いている人数(経営実態調査では基準11.8人に対し実配置15.4人) |
| 1人あたりの給与 | 公定価格に積算されている人件費の水準と、自園の給与規程の差 |
| 使途が決まった加算 | 処遇改善等加算・配置改善の加算など、人件費に充てる前提の収入 |
こども家庭庁の「令和8年度における私立保育所の運営に要する費用について」では、公定価格に積算されている保育士1人あたりの人件費の年額を、全国平均で491万円としています(処遇改善等加算を含まない額)。自園の給与水準がこれとどれだけ違うかを把握すると、人件費比率が高い理由が「人数」なのか「単価」なのかを切り分けられます。
基準を上回る配置は、保育の質や職員の負担軽減のために必要なことも多く、一律に減らすべきものではありません。1歳児配置改善加算(5:1)、3歳児配置改善加算(15:1)、4歳以上児配置改善加算(25:1)、チーム保育推進加算など、手厚い配置に対応する加算の要件を満たせるかを先に確かめます。
5. 定員の見直し:減らす手続きと、超え続ける場合の減算
利用定員を減らす
在籍が利用定員を長く下回る見込みなら、利用定員の見直しが選択肢になります。子ども・子育て支援法第35条第2項により、利用定員を減らすときは、減らす日の3か月前までに市町村長に届け出る必要があります。WAM のレポートでは、定員を減らした保育所(426施設)で、定員が111.5人から96.4人になり、利用率は85.6%から93.9%に、赤字施設の割合は40.4%から27.2%に改善していました。同レポートは、利用率が平均を下回る状況が続く場合は早めに行政と協議することを勧めています。
利用定員を減らすと定員区分が変わり、子ども1人あたりの単価は上がります。ただし、定員に応じた職員配置や加算の要件(主任保育士専任加算の基礎職員数など)も変わるため、単価だけで判断せず、年間の収支を試算してから決めます。
定員を超え続ける場合の減算
逆に、定員を超えて受け入れる状態が続く場合の減算もあります。留意事項通知では、直前の連続2年度に常に利用定員を超えていて、かつ年間平均在所率が120%以上の場合に、定員を恒常的に超過する場合の調整がかかります。この期間は、令和7年度に5年間から2年間に短縮されました。
6. 自園の収支を点検する手順
- 月別の在籍を年齢別に並べる:各月初日の在籍を、年齢区分・認定区分ごとに1年分並べ、利用定員に対する利用率を出します。
- 単価を当てはめて収入を試算する:市町村の単価表を使い、在籍の見通しから翌年度の収入を試算します。
- 加算の算定状況を一覧にする:取れているもの、要件を満たせば取れるもの、取れないものに分けます。WAM の分析では療育支援加算・障害児保育加算の算定率に黒字・赤字で差がありました。
- 人件費を「人数」と「単価」に分ける:配置基準に対する実配置の人数と、1人あたりの給与を分けて比べます。
- 利用定員の見直しを試算する:在籍の見込みが利用定員を下回り続ける場合、定員区分を変えたときの収入と配置を試算し、市町村に相談します。
- 公表されている比較の数字と照らす:ここdeサーチでは、令和7年4月から施設ごとの人件費比率などの経営情報が公表されています。所在地の近い施設と比べる材料になります。
チェックリスト
- 利用定員と認可定員を区別して把握している
- 年齢別の在籍の見通しを、翌年度分まで作っている
- 取れる加算を漏れなく申請している
- 人件費比率の高さの理由を、人数と単価に分けて説明できる
- 経営情報の報告を、事業年度の終了後5か月以内に済ませている(令和8年7月から、未報告の場合は基本分単価の5%の減算)
7. まとめ
- 私立保育所の収支差率は3.2%、人件費比率は73.3%(こども家庭庁の経営実態調査、令和5年度決算)
- WAM の分析では、赤字施設は利用率が低く、児童1人あたりの収益も低く、人件費率が高い
- 公定価格の単価は利用定員の区分で決まり、在籍が離れると収入が想定を下回る
- 全国の定員充足率は令和8年4月で87.7%と下がり続けており、利用定員の見直しは3か月前までの届出が必要
参考資料
- こども家庭庁「令和6年度 幼稚園・保育所・認定こども園等の経営実態調査 集計結果」: https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/2e70a726-9933-4ff4-aed8-8c6e2f481c01/7286b0aa/20250618_policies_hoiku_keieijicchou_01.pdf
- 福祉医療機構「2024年度 保育所・幼保連携型認定こども園の経営状況について」(令和8年3月27日): https://www.wam.go.jp/hp/wp-content/uploads/260327_No016.pdf
- こども家庭庁「保育所等関連状況取りまとめ(令和8年4月1日)」: https://www.cfa.go.jp/policies/hoiku/torimatome/r8
- こども家庭庁「保育政策の新たな方向性」: https://www.cfa.go.jp/policies/hoiku/new_direction
- こども家庭庁「令和8年度公定価格・基準等の見直し事項」(令和8年4月): https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/3a1576c7-071d-4325-8be8-edced6d12ee1/330bfaef/20260409_policies_kokoseido_178.pdf
- こども家庭庁「令和8年度における私立保育所の運営に要する費用について」(令和8年7月31日): https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/3a1576c7-071d-4325-8be8-edced6d12ee1/d2fbc138/20260803_policies_kokoseido_206.pdf
- 子ども・子育て支援法(e-Gov 法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/424AC0000000065
- 厚生労働省「令和7年(2025)人口動態統計月報年計(概数)の概況」: https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai25/dl/gaikyouR7houdou.pdf