保育所の指導監査の準備は、国の監査事項に沿って、前回の指摘の改善、職員配置、防災と安全計画、給食、会計の順に書類を点検するのが基本です。国の通知は、自主点検表を事前に提出させるなどの効率的な方法を併用してよいとしており、自治体によっては事前の提出物があります。一方で、重大事故などを受けた特別指導監査は事前の通知なしに行われることもあります。どちらの場合も、準備の中心は「日頃の記録がそろっているか」です。

監査には、根拠の違う2つがあります。ひとつは児童福祉法にもとづく都道府県等の指導監査(認可の基準を守っているか)、もうひとつは子ども・子育て支援法にもとづく市町村の確認監査(給付の対象としての運営基準と請求が正しいか)です。

この記事では、児童福祉法、同施行令、こども家庭庁の通知「児童福祉行政指導監査の実施について」、東京都の指導検査報告書、令和8年度の公定価格の見直し資料にもとづいて、準備の順番を整理します。公定価格の全体像は公定価格の仕組みで扱っています。


1. 2つの監査の違い

指導監査(児童福祉法)確認監査・指導(子ども・子育て支援法)
行う者都道府県知事など市町村長
根拠児童福祉法第46条、同施行令第38条子ども・子育て支援法第38条〜第40条
見るもの児童福祉施設の設備及び運営に関する基準を守っているか特定教育・保育施設の運営基準、給付費の請求
頻度原則として年度ごとに1回以上、実地実地指導は定期的かつ計画的に(頻度は各市町村が定める)
厳しい措置改善勧告 → 改善命令 → 事業の停止命令勧告 → 公表 → 命令 → 確認の取消し・効力の停止

確認を取り消された者は、子ども・子育て支援法第40条第2項により、取消しから5年間は確認の申請ができません。

児童福祉法の監査の方式

国の通知「児童福祉行政指導監査の実施について」(平成12年4月25日 児発第471号、第7次改正 令和5年3月31日 子発0331第14号)は、監査を2つに分けています。

方式内容
一般指導監査原則として年度ごとに1回以上、実地で行う
特別指導監査死亡事故などの重大事故が起きた場合や、通報・苦情・相談で重大な被害のおそれを把握した場合に行う。事前に通知せずに行うことが適切な場合もある

実地によらない検査が認められるのは、施行令第38条のただし書きにより、次のどちらかの場合です。

  1. 天災その他やむを得ない事由で、実地検査が著しく困難または不適当なとき。通知は「感染症が長期にわたって流行している状況」を想定し、都道府県側の職員の多忙などは対象にならないとしています。
  2. 前年度の実地検査の結果などから、実地が必ずしも必要でないと認められるとき。通知は、前年度の結果、設置から3年を経過していること、その都道府県の前年度の実地検査の実施率が5割以上であることを勘案するとしています。

実地によらない場合も、書面だけでなくテレビ会議や電話を組み合わせ、疑念があれば実地に切り替えるとされています。

市町村の指導の形

子ども・子育て支援法にもとづく指導の通知(平成27年12月7日 府子本第390号ほか、最終改正 令和6年2月19日)では、新たに確認を受けた施設にはおおむね1年以内に集団指導を行い、全施設を対象に実地指導を定期的かつ計画的に行うとしています。実地指導の中で、子どもの生命・身体に危害のおそれがある著しい運営基準違反や、給付費の不正請求が見つかった場合は、監査に切り替わります。


2. 全国と東京都の実施状況

全国(こども家庭庁「児童福祉行政指導監査等の実施状況報告」令和4年度分)

項目
監査の対象の保育所23,543か所
監査を実施18,386か所(78.1%)
うち実地監査12,853か所(54.6%)

公表されている最新は令和4年度分です(令和7年2月26日公表)。

東京都(令和6年度指導検査報告書、認可保育所)

項目
対象2,558か所
実地検査220か所(実施率8.6%)
文書で指摘した施設90施設、延べ167事項

主な文書指摘は次のとおりです。

指摘の内容事項数
避難・消火訓練を毎月行っていない月がある27
開所時間中に保育士が2人を下回る時間帯がある14
カーテン・敷物が防炎性能を持っていない14
重大事故を区市町村に報告していない11

東京都の対象数には、児童相談所設置市と島しょ部の施設は含まれていません。都道府県や市によって実施の形は違いますが、訓練の記録、配置、事故の報告は、どこでも見られる基本の項目です。


3. 国の監査事項で見られる書類

通知の別紙「児童福祉行政指導監査事項」のうち、保育所に関係する主な着眼点を、準備する書類の形に置き換えました。通知は、二重下線を引いた項目を優先して確認するとしています。

分野主な着眼点準備する書類・記録の例
運営管理定員の遵守、管理規程・経理規程、帳簿の整備、施設長の資格と専任運営規程、経理規程、在籍児童の名簿、施設長の辞令と資格
職員配置配置基準にもとづく職員の確保勤務表(シフト)、出勤簿、保育士証の写し、年齢別の児童数との突き合わせ
開所・保育開所・閉所時間、保育時間、開設日数、保育課程と指導計画全体的な計画、年・月・週の指導計画、保育日誌
小学校との接続保育所児童保育要録の作成と送付要録の控えと送付の記録
職員処遇労働基準法の遵守、職員の健康診断、研修の計画的な実施就業規則、36協定・24協定と届出、健康診断の記録、研修計画と受講記録
防災設備の点検、非常災害対策計画、訓練の回数消防設備の点検記録、非常災害対策計画(火災・水害・土砂災害・地震)、毎月の避難・消火訓練の記録
安全管理安全計画を含む事故防止の指針、睡眠・プール・食事・送迎の対応、救命処置の訓練、事故の報告安全計画、事故防止マニュアル、午睡チェック表、ヒヤリ・ハットの記録、事故報告書
虐待防止虐待などの未然防止と、起きたときの対応虐待防止の指針、研修記録、相談・通報の体制
給食・健康栄養量、検食、保存食(2週間・冷凍・原材料も)、給食関係者の検便、健康診断、SIDS の防止献立表、検食簿、保存食の記録、検便の結果、児童の健康診断の記録
苦情解決苦情解決の窓口苦情解決の体制の掲示、受付と対応の記録
会計運営費の弾力運用、当期末支払資金残高(その年度の運営費収入の30%以下)、他会計との貸借、現金・預金の保管、内部牽制決算書、弾力運用の承認書類、通帳、現金出納帳
私的契約児定員を超えて私的契約児を入れていないか契約書、在籍の記録

帳簿の整備そのものは、児童福祉施設の設備及び運営に関する基準第14条で求められています。


4. 準備の順番

手順

  1. 通知と提出物を確かめる:監査の日時、方式(実地・書面・オンライン)、事前に出す書類(自主点検表など)と締切を確かめます。
  2. 前回の指摘の改善を確かめる:前回の指摘事項ごとに、何をいつ改めたかを記録と一緒に説明できるようにします。
  3. 職員配置を月ごとに突き合わせる:勤務表と年齢別の児童数を時間帯ごとに照らし、配置基準と「保育士2人以上」を下回る時間帯がないか確かめます。
  4. 防災と安全計画を確かめる:毎月の避難・消火訓練の記録に抜けがないか、年に1回は夜間(または夜間を想定した)訓練があるか、安全計画が年度の初めに策定され、職員研修と保護者への周知が行われているかを見ます。
  5. 事故とヒヤリ・ハットを確かめる:重大事故を市町村へ報告したか、再発防止の検討を記録したかを確かめます。
  6. 給食と健康の記録をそろえる:保存食、検食、検便、健康診断の記録の抜けを確かめます。
  7. 会計を確かめる:弾力運用の手続き、当期末支払資金残高、他会計との貸借の補填を確かめます。
  8. 当日の体制を決める:説明する人、書類を出す人、保育を回す人を分け、保育の配置が崩れないようにします。

前日までのチェックリスト

  • 前回の指摘事項と改善の記録を1冊にまとめた
  • 直近の月の勤務表と児童数を時間帯ごとに突き合わせた
  • 避難・消火訓練が毎月実施され、記録がそろっている
  • 非常災害対策計画が火災以外(水害・土砂災害・地震)にも対応している
  • 安全計画を年度の初めに策定し、職員研修・訓練と保護者への周知の記録がある
  • カーテン・敷物の防炎の表示を確かめた
  • 重大事故があれば市町村への報告の控えがある
  • 保存食(2週間)と検食の記録がそろっている
  • 保育所児童保育要録の送付の記録がある
  • 就業規則・労使協定と労働基準監督署への届出の控えがある
  • 運営費の弾力運用の書類と決算書をそろえた

5. 令和8年度の見直しで監査に関係すること

こども家庭庁「令和8年度 公定価格・基準等の見直し事項」(令和8年4月)で、次の減算が新しく設けられました。

減算内容適用
安全計画の策定等をしていない場合月1,350円。未策定なら策定した月まで減算。計画の内容を実施しない状況が1年続いた場合は、その翌月から解消した月まで減算。保育所は基準第6条の3の第2項(研修・訓練)、第3項(保護者への周知)、第4項(見直し)ごとに判断令和8年7月から
経営情報等の報告を行っていない場合子ども・子育て支援法第58条第2項の報告(事業年度の終了後5か月以内)を、期限から3か月以上経っても行っていない場合などに、基本分単価の5%を減算令和8年7月から

また、新設の保育 ICT 推進加算では、要件のひとつに、給付・監査の手続きで「保育業務施設管理プラットフォーム」を使うことが入っています。監査の書類の出し方がオンラインに移っていく流れの一部です。ICT の導入の進め方は保育の ICT 化で説明しています。


6. 落とし穴

  • 訓練を「やったが記録していない」:記録がなければ、実施したと説明できません。毎月の記録を残します。
  • 月の途中の退職で配置が崩れる:勤務表の上では足りていても、特定の時間帯に保育士が1人になることがあります。時間帯ごとに確かめます。
  • 安全計画を作って終わりにする:研修・訓練、保護者への周知、見直しの実施までが求められ、令和8年7月からは減算の判断にも使われます。
  • 事故の報告を施設の中で止める:重大事故は市町村への報告が必要です。東京都の指摘でも件数が多い項目です。
  • 会計の貸付を年度内に戻さない:他の区分への貸付を年度内に補填していないことは、東京都の指摘の例にも挙がっています。収支の見方は保育所の収支の見方で扱っています。

7. まとめ

  • 監査は、児童福祉法の都道府県等の監査と、子ども・子育て支援法の市町村の確認監査の2つがある
  • 都道府県等の監査は原則として年度ごとに1回以上、実地。重大事故などでは事前通知のない特別指導監査もある
  • 準備は、前回の指摘 → 職員配置 → 防災と安全計画 → 事故 → 給食・健康 → 会計の順に記録を点検する
  • 令和8年7月から、安全計画と経営情報の報告の未実施に減算がある

参考資料