保育士の離職を減らすには、「なぜ辞めるのか」を理由ごとに分け、理由に合った手を打つことが基本です。 東京都が保育士登録者を対象に行った「東京都保育士実態調査」(令和4年度実施、有効回収18,239件)では、保育士を辞めた理由の上位は、職場の人間関係、仕事量、給料、健康上の理由でした。今の職場を辞めたいと考える理由では、給料と仕事量、労働時間が上位に並びます。

つまり、離職の理由は1つではなく、給与・仕事量・人間関係のそれぞれに手を打つ必要があります。この記事では、調査の結果と、公定価格や補助の仕組みにもとづいて、園として作れる「辞めない仕組み」を整理します。


1. 調査に見る離職の理由

保育士を辞めた理由(過去に保育士として働いていた人)

理由割合
職場の人間関係31.5%
仕事量が多い23.1%
給料が安い22.1%
健康上の理由(体力含む)20.6%

今の職場を辞めたいと考える理由(現在働いている人)

理由割合
給料が安い61.6%
仕事量が多い54.0%
労働時間が長い35.4%
職場の人間関係30.1%

今の職場で改善を希望する項目

項目割合
給与・賞与等の改善62.7%
職員数の増員48.6%
事務・雑務の軽減40.1%

いずれも複数回答です。同じ調査では、今後も保育士として働き続けたいと考える人は約8割でした。「保育の仕事は続けたいが、この職場の条件では続けにくい」という人が多いと読めます。


2. 理由ごとの打ち手

離職の理由園として打てる手使える仕組み
給料が安い賃金改善の配分を見直し、昇給の道筋を示す処遇改善等加算、キャリアアップ研修と役職
仕事量が多い・労働時間が長い周辺業務を切り出し、記録と連絡を効率化する保育補助者・保育支援者の雇上げの補助、ICT の導入
職場の人間関係面談と相談の窓口、役割分担を決める主任・副主任などの役職、園内研修
健康上の理由休憩と休暇を確実に取れる勤務表にするノンコンタクトタイム、代替職員
住まい・通勤住まいの負担を下げる保育士宿舎借り上げ支援事業

給与:処遇改善等加算の配分を見える形にする

公定価格の処遇改善等加算は、区分によって、賃金改善の対象や配分の要件が決まっています。加算を受け取っていても、配分のルールが職員に伝わっていなければ、「給料が安い」という不満は減りません。 誰が、どの研修を修了し、どの役職に就けば、いくら上がるのかを、表にして示します。加算の中身は「保育の処遇改善等加算」、研修の組み立ては「保育士等キャリアアップ研修」で整理しています。

仕事量:周辺業務と記録を減らす

清掃・配膳・寝具の準備などの周辺業務は、保育支援者に任せられます。保育士の補助の手が足りない場合は保育補助者を置きます。いずれも雇上げの費用を補助する事業があります(「保育補助者・保育支援者の活用」)。

記録・連絡帳・登降園の管理は、ICT で手書きと転記を減らせます。導入の順番は「保育の ICT 化の進め方」を参照してください。

労働時間:ノンコンタクトタイムを勤務表に入れる

保育士が子どもから離れて記録や準備をする時間を、勤務表の中に確保します。持ち帰り仕事や、休憩中の作業を前提にした業務の組み方は、労働時間の把握の面でも見直しが必要です。確保の方法は「ノンコンタクトタイムの確保」で扱っています。

人間関係:相談の経路と役割分担を決める

人間関係の不満は、「誰に相談すればよいかわからない」「役割があいまいで負担が偏る」ことから生まれやすくなります。

  • 年2回以上、園長または主任と1対1で話す面談の時期を決める
  • クラスの担任の役割分担(記録、保護者対応、行事の準備)を書き出して共有する
  • 園長・主任以外に相談できる窓口(法人の担当、外部の相談窓口など)を示す
  • 入職1年目の職員には、相談役の先輩を決める

住まい:宿舎の借り上げ

保育士用の宿舎を借り上げる費用の一部を補助する事業を使える自治体があります。採用だけでなく、若手の定着にも効きます。要件は「保育士宿舎借り上げ支援事業」で整理しています。


3. 進める順番

  1. 退職者を一覧にする:過去3年ほどの退職者の勤続年数、年齢、退職の時期、本人が挙げた理由を並べます。
  2. 今の職員に聞く:無記名のアンケートで、改善を希望する項目と、辞めたいと考えたことがあるかを聞きます。調査の項目(給与、職員数、事務・雑務、人間関係)をそろえると、比べやすくなります。
  3. 理由ごとに手を選ぶ:給与、仕事量、労働時間、人間関係、健康、住まいのどれが大きいかで、打つ手の順番を決めます。
  4. 補助と加算を確かめる:処遇改善等加算の配分、保育補助者・保育支援者の補助、宿舎の借り上げ、ICT の導入の補助で、使えるものを市区町村に確かめます。
  5. 半年ごとに振り返る:残業時間、有給休暇の取得、面談の実施、退職の人数を半年ごとに確かめます。

採用の進め方は「保育士の採用方法」を参照してください。定着の仕組みがないまま採用を増やしても、入れ替わりの手間と教育の負担が増えるので、採用と定着は同時に見直します。

チェックリスト

  • 過去3年の退職者の一覧(勤続年数・時期・理由)がある
  • 処遇改善等加算の配分のルールを、職員に表で示している
  • 周辺業務を切り出し、保育支援者などに任せる計画がある
  • ノンコンタクトタイムが勤務表に入っている
  • 1対1の面談の時期と、園長・主任以外の相談の窓口を決めている

4. まとめ

  • 保育士を辞めた理由の上位は、職場の人間関係、仕事量、給料、健康上の理由(東京都保育士実態調査)
  • 今の職場への改善の希望は、給与・賞与、職員数の増員、事務・雑務の軽減が上位
  • 給与は加算の配分の見える化、仕事量は補助者と ICT、人間関係は面談と役割分担で手を打つ
  • 退職者の一覧と職員へのアンケートで、自園の理由を確かめてから順番を決める

補助の事業は、自治体によって実施の有無と要件が違います。市区町村の最新の案内を確かめてください。

参考資料