保育所の人件費比率は、委託費などの事業収入に対する人件費の割合です。 公定価格は、国家公務員の給与に準じた本俸基準額と、年齢別配置基準にもとづく職員の数で人件費を積算しています。そのため、実際の人件費比率を見るときは、「公定価格が見込んでいる人件費」と「自園が実際に払っている人件費」の差を分けて考えると、何が比率を動かしているかが見えます。

この記事では、こども家庭庁の「令和8年度における私立保育所の運営に要する費用について」(令和8年7月31日)と、公定価格の留意事項通知にもとづいて、公定価格の人件費の積算と、実際の配置との比べ方を整理します。


1. 公定価格の人件費の積算

本俸基準額

こども家庭庁の通知では、職種ごとの本俸基準額(月額)を次のように示しています。

職種本俸基準額(月額)特殊業務手当
所長294,200円―
主任保育士286,416円9,300円
保育士254,694円7,800円
調理員等228,800円―

同じ通知では、手当などを含めた保育士1人あたりの人件費の年額を、全国平均で491万円、地域区分20/100の地域で548万円、その他地域で458万円としています。いずれも処遇改善等加算の区分1〜3を含まない額で、通知には、この額を理由に給与の水準を下げることは適切でない旨の注記があります。

積算に含まれる職員

基本分単価には、次の職員の人件費が含まれています(留意事項通知 別紙2 Ⅱの1)。

職員積算の内容
保育士年齢別配置基準(4歳以上児30:1、3歳児20:1、1・2歳児6:1、乳児3:1)の数、定員90人以下の施設の+1人、標準時間認定に対応する+1人、研修代替の年3日分、非常勤の保育士
施設長1人
調理員等定員20人は1人、21〜40人は2人(うち1人は非常勤)、41〜150人は2人、151人以上は3人(うち1人は非常勤)
事務非常勤事務職員
嘱託医・嘱託歯科医嘱託

これに加えて、配置改善加算やチーム保育推進加算、主任保育士専任加算などを取っていれば、その分の人件費が上乗せされます。加算の全体は「保育所の加算一覧」で整理しています。


2. 人件費比率の計算

人件費比率の定義は、比べる目的に合わせてそろえます。一般的には次の形です。

人件費比率 = 人件費 ÷ 事業収入

項目含めるもの
人件費給与、賞与、法定福利費、退職給付費用、派遣職員の費用(分けて見ることも多い)
事業収入委託費(施設型給付費)、利用者負担、地方単独の補助金、延長保育などの事業収入

処遇改善等加算で受け取った額と、それを充てた賃金改善の額は、どちらにも入れます。 加算分だけ比率が上がって見えることがあるので、加算を除いた比率も並べておくと、年度ごとの比較がしやすくなります。

比べる相手

  • 過去の自園:3年分を並べ、比率の変化が配置の変化によるものか、収入の変化によるものかを分けます
  • 公定価格の積算:自園の在籍で、積算上の職員数と人件費を計算し、実際の配置と比べます
  • 同じ規模・地域の園:経営情報の報告にもとづいて公表される情報などで、規模と地域区分が近い園と比べます

3. 実際の配置との差を読む

人件費比率が積算より高くなる主な理由は、次の4つです。

理由確かめること
配置基準を上回る配置朝夕の時間帯や障害のある子どもへの対応で、積算を超えて保育士を置いている。加算で賄えている部分と、自園の持ち出しの部分を分ける
在籍が利用定員を下回る職員の数は定員を前提に確保しているのに、在籍が少なく収入が落ちている
取れていない加算要件を満たしているのに申請していない加算がある
給与水準地域の採用市場に合わせて、本俸基準額より高い給与を払っている

在籍と利用定員の差が大きい場合は、利用定員の見直しも選択肢になります。手続きと単価への影響は「利用定員の変更」で扱っています。

逆に人件費比率が低すぎる場合は、処遇改善等加算の賃金改善が適切に行われているか、委託費の使途のルールに沿っているかを確かめます。処遇改善等加算の実績報告では、区分ごとに求められる賃金改善を行ったことを示す必要があります。詳しくは「保育の処遇改善等加算」を参照してください。


4. 見直しの順番

  1. 積算上の職員数を計算する:各月初日の年齢別在籍から、基本分単価と算定中の加算が求める職員数を出します。
  2. 実際の配置と並べる:常勤換算で、職種ごとに実際の配置と比べます。
  3. 差の理由を分ける:配置の上乗せ、在籍の不足、未申請の加算、給与水準のどれかに分けます。
  4. 収入側の手を先に打つ:未申請の加算の申請、在籍を増やす取組み、利用定員の見直しを検討します。
  5. 配置の組み方を見直す:シフトの組み方、短時間勤務の保育士の活用、ICT での事務の削減で、保育の質を落とさずに時間を生み出せないかを確かめます。

給与を下げることは、公定価格の積算の趣旨からも、保育士の採用と定着の面からも、最後に検討する手段です。

チェックリスト

  • 人件費比率の定義(何を人件費と収入に入れるか)を決め、毎年同じ定義で計算している
  • 処遇改善等加算を含む比率と、除いた比率の両方を見ている
  • 積算上の職員数と実際の配置を、月ごとに比べている
  • 要件を満たしているのに申請していない加算がない
  • 在籍と利用定員の差を、年齢ごとに把握している

5. まとめ

  • 公定価格の人件費は、本俸基準額と年齢別配置基準などの職員数で積算されている
  • 人件費比率は定義をそろえ、処遇改善等加算を含む比率と除いた比率を並べて見る
  • 比率が高い理由は、配置の上乗せ・在籍の不足・未申請の加算・給与水準の4つに分けて考える

本俸基準額などは年度ごとに改定されます。こども家庭庁の最新の通知と、市町村の単価表で確かめてください。収支全体の見方は「保育所の収支の見方」を参照してください。

参考資料