私立保育所に市町村から支払われる委託費は、使い道が決まったお金です。原則は人件費・管理費・事業費の区分どおりに使い、要件を満たすほど、区分をまたぐ使い方や積立、同じ法人の他の施設への充当が認められるしくみになっています。これを一般に「弾力運用」と呼びます。
決まりの正本は、こども家庭庁の通知「子ども・子育て支援法附則第6条の規定による私立保育所に対する委託費の経理等について」(平成27年9月3日、最終改正 令和8年3月31日 こ成保第264号)です。令和8年3月の改正では、弾力運用の対象になる事業に乳児等通園支援事業(こども誰でも通園制度)が加わり、国の標準的な監査調書と自己点検票が示されました。
この記事では、通知の構成に沿って、使える範囲・弾力運用の段階・積立と繰越の上限・監査で見られる点を整理します。委託費の金額そのもの(公定価格)のしくみは公定価格のしくみ、収支全体の見方は保育所の収支の見方でまとめています。
1. なぜ使途に制限があるのか
委託費は、子ども・子育て支援法附則第6条にもとづき、市町村が私立保育所に保育を委託して支払う費用です。公費を主な財源とする運営費なので、通知は使い道を次の3つの区分に分けています(通知1(1))。
| 区分 | 使える経費 |
|---|---|
| 人件費 | 保育所の職員の給与・賃金など、職員の処遇に必要な一切の経費 |
| 管理費 | 物件費・旅費など保育所の運営に必要な経費。減価償却費加算の認定を受けていれば建物・設備・備品の整備・修繕や環境の改善、賃借料加算の認定を受けていれば建物の賃借料も含む |
| 事業費 | 入所児童の処遇に直接必要な一切の経費 |
一方で、区分どおりにしか使えないと、職員の配置や設備の状況に合わせた運営がしにくく、長期的な修繕や建て替えにも備えられません。そこで、保育の質と運営の適正さが確かめられる保育所ほど、使い方の自由度が広がる形がとられています。
なお、この使途の決まりは委託費に対するもので、委託費以外の収入(実費徴収や自主事業の収入など)には適用されません。ただし国庫補助事業の補助金には、それぞれの補助要綱の決まりがかかります(通知8)。
2. 弾力運用の段階と要件
弾力運用は、満たす要件が増えるほど使える範囲が広がる積み上げ式です。
段階1:区分をまたいで使う・積み立てる(通知1(2)(3))
次の7つの要件をすべて満たすと、人件費・管理費・事業費の区分にかかわらず、その保育所を経営する事業の経費に充てられます。
- ① 児童福祉法第45条第1項の基準(設備運営基準)が守られている
- ② 委託費の交付基準と関係通知に示す職員の配置などが守られている
- ③ 給与規程が整備され、適正な給与水準が維持されているなど、人件費の運用が適正
- ④ 給食で必要な栄養量が確保され、日常生活に必要な経費が適正に確保されている
- ⑤ 保育所保育指針を踏まえた保育が行われ、処遇上必要な設備が整っている
- ⑥ 理事長などの役員・施設長・職員が、国などの研修会に積極的に参加している
- ⑦ 保育所以外の事業を含め、設置者の運営に問題となる事由がない
この段階で、人件費積立資産・修繕積立資産・備品等購入積立資産に積み立て、翌年度以降の経費に充てることもできます。積立資産を目的以外に使うときは、市町村への事前の協議が要ります。
段階2:同じ設置者の保育所等の整備に充てる(通知1(4))
段階1の要件を満たし、さらに別表1の事業のいずれかを行っている保育所は、その会計年度に、処遇改善等加算の区分1「基礎分」(改善基礎分)として加算された額の範囲で、同じ設置者の保育所等(保育所と、それ以外の特定教育・保育施設・特定地域型保育事業)の次の経費(別表2)に充てられます。
| 別表1(対象になる事業) | 別表2(充てられる経費) |
|---|---|
| 延長保育事業、一時預かり事業、乳児を3人以上受け入れているなど低年齢児の積極的な受入れ、地域子育て支援拠点事業、特別児童扶養手当の支給対象障害児の受入れ、家庭支援推進保育事業、休日保育加算の対象施設、病児保育事業、乳児等通園支援事業(令和8年3月の改正で追加) | 保育所等の建物・設備の整備・修繕・環境の改善、土地・建物の賃借料、これらに係る借入金(利息を含む)の償還・積立、保育所等を経営する事業に係る租税公課 |
整備のための積立は「保育所施設・設備整備積立資産」として科目を設けて行います。これを同じ設置者の他の保育所等の施設・設備に使うときは、市町村への事前の協議が要ります。
段階3:子育て支援事業・社会福祉施設にも広げる(通知1(5)(6))
段階2の要件に加えて、次の3つを満たすと、使える範囲がさらに広がります。
- ① 計算書等(社会福祉法人会計基準・学校法人会計基準・企業会計などによる財務諸表)を保育所に備え付け、閲覧できるようにしている
- ② 毎年度、第三者評価加算の認定を受けているか、苦情解決の仕組み(周知、第三者委員の設置、苦情の内容と解決結果の定期的な公表)を整えている
- ③ 処遇改善等加算のキャリアパス要件と賃金改善要件をどちらも満たしている
この段階で認められるのは次の2つです。
| 充てる先 | 上限 |
|---|---|
| 同じ設置者の子育て支援事業(地域子ども・子育て支援事業と、助成を受けた企業主導型保育事業)の施設整備など(別表3)と、同じ設置者の社会福祉施設等の整備・賃借料・借入金償還など(別表4) | 改善基礎分として加算された額の範囲 |
| 同じ設置者の保育所等の整備・土地の取得・賃借料・借入金の償還など(別表5)と、子育て支援事業の施設整備など(別表3) | 委託費の3か月分(その年度12か月分の4分の1。段階2の改善基礎分を含み、処遇改善等加算の区分2「賃金改善分」を除く) |
積立資産は「人件費積立資産」と「保育所施設・設備整備積立資産」(整備・修繕、省力化機器などの購入、増改築に伴う土地取得)に積めます。目的以外に使うときは、社会福祉法人・学校法人は理事会、それ以外は市町村が、使用目的・金額・時期を審査して承認します。
賃金改善分は別の決まりで動く
処遇改善等加算の区分2「賃金改善分」は、職員の賃金改善に充てるお金で、上の弾力運用の対象から外れます。複数の施設で配分する場合も、処遇改善等加算の通知(令和7年4月11日 こ成保296)の定めによります。区分1の加算額は、勤続年数などにもとづく昇給などに適切に充てることとされています(通知2)。処遇改善等加算のしくみは保育士の処遇改善等加算で整理しています。
3. 繰越と積立の上限
前期末支払資金残高(繰越金)の取り崩し
前年度から繰り越した支払資金残高を取り崩すときは、市町村への事前の協議が要ります(通知3(1))。ただし次の場合は協議を省略できます。
- 自然災害その他やむを得ない事由で取り崩す必要がある
- その年度に取り崩す合計額が、その施設の拠点区分の事業活動収入計(予算額)の3%以下
段階3の要件を満たす保育所は、あらかじめ市町村(社会福祉法人・学校法人は理事会)の承認を得て、人件費や光熱水料など通常経費の不足を補うほか、運営に支障のない範囲で、法人本部の運営経費、同じ設置者の社会福祉事業・子育て支援事業、公益事業の経費に充てられます(通知3(2))。
繰り越せるのは委託費収入の30%まで
翌年度に繰り越せる当期末支払資金残高は、将来の経費を計画的に積み立てた結果として持つものとされ、過大な保有を防ぐため、その年度の委託費収入の30%以下とされています(通知3(2))。
資金の置き方と法人内の貸付
委託費は、銀行・郵便局への預貯金など、安全確実で換金性の高い方法で管理します。同じ法人内の他の拠点区分・本部・収益事業などへの貸付は、経営上やむを得ない場合にその年度内に限って認められ、それ以外への貸付は一切認められません(通知4)。
年度末に確かめるチェックリスト
- □ 段階1の7要件を満たしているか(監査の指摘事項が残っていないか)
- □ 別表2の経費への支出合計が、改善基礎分を超えていないか
- □ 別表3・4の経費への支出合計が改善基礎分を、別表3・5の経費への支出合計が委託費の3か月分を超えていないか
- □ 積立資産への積立支出と当期資金収支差額の合計が、事業活動収入計(決算額)の5%を超えていないか
- □ 当期末支払資金残高が、委託費収入の30%以下か
- □ 積立資産の目的外の使用や繰越金の取り崩しに、必要な協議・理事会承認の記録があるか
- □ 法人内への貸付が、年度内に返済されているか
4. 監査で見られる点
収支計算分析表の提出を求められる場合
市町村は、提出された計算書等が次のいずれかに当たると、別表6の収支計算分析表の提出を求め、使途の遵守状況と入所児童の処遇を確認します(通知5(2))。
- 別表2の経費への支出合計が改善基礎分を超えている
- 別表3・4の経費への支出合計が改善基礎分を、または別表3・5の経費への支出合計が委託費の3か月分を超えている
- 保育所の拠点区分から、通知で認められた以外の支出がされている
- 積立資産への積立支出と当期資金収支差額の合計が、事業活動収入計(決算額)の5%を上回っている
認められない支出があったときの扱い
通知で認められた以外の支出があった場合、市町村が適当と認める期間(4月分から翌年3月分までの間)、改善基礎分の全額の加算が停止されます(通知5(3))。入所児童の処遇に不適切な事由があり改善されない場合は、改善基礎分の管理費相当分・人件費相当分の減額、悪質な場合は新規の委託の停止や認可の取消しなども検討されます(通知5(4)(5))。
標準の監査調書と自己点検票
令和8年3月の改正で、委託費の経理の監査について、国が標準的な監査調書と自己点検票を示しました。自治体ごとに違っていた監査項目をそろえるためのもので、こども家庭庁のページ(https://www.cfa.go.jp/policies/hoiku/kansa)で公開されています。技術的助言の位置づけなので自治体の条例による違いは残りますが、**自己点検票で事前に「適・否」を確かめておく**と、監査の準備が進めやすくなります。保育業務施設管理プラットフォームへの入力機能は、令和8年度に改修し令和9年度以降に実装する前提とされています。監査の準備全体は[保育所の指導監査の準備](/operations/hoiku-shido-kansa-junbi/)でまとめています。
5. 実行時の落とし穴
弾力運用の段階を確かめないまま、他の施設や本部に回す
段階ごとに要件と上限が違います。段階1の7要件に監査の指摘が残っていると、段階2・3の使い方もできません。回す前に、どの段階の要件を満たしているかを年度の初めに確かめます。
協議や承認の記録を残していない
積立資産の目的外の使用、繰越金の取り崩し、他の施設への充当には、市町村への協議や理事会の承認が要る場面があります。承認を得ていても記録がないと、監査で説明できません。議事録と協議の文書を、計算書等と一緒に保管します。
賃金改善分を弾力運用の原資に数える
処遇改善等加算の区分2は、委託費の3か月分の計算からも外れます。区分ごとに管理しないと、上限の計算を誤ります。
委託費以外の収入と混ぜて管理する
使途の決まりは委託費にかかります。自主事業の収入などと区分せずに管理すると、どの支出が委託費からなのか説明できなくなります。拠点区分・サービス区分を設けて整理します。
会計の基準ごとの読み替えを忘れる
株式会社などが企業会計で処理している場合、支払資金は流動資産と流動負債の差額(1年基準で振り替えたもの・引当金・貯蔵品以外の棚卸資産を除く)とされています(通知3(3))。30%の上限もこの定義で計算します。
6. まとめ
- 委託費は人件費・管理費・事業費の区分で使うのが原則。要件を満たすほど使い方が広がる
- 段階1(7要件)で区分をまたぐ使い方と積立、段階2(別表1の事業)で改善基礎分の範囲で同じ設置者の保育所等の整備、段階3(計算書等の閲覧・第三者評価または苦情解決・処遇改善等加算の要件)で子育て支援事業・社会福祉施設や委託費3か月分までの充当ができる
- 繰越金の取り崩しは原則事前協議(事業活動収入計の3%以下などは省略可)、繰り越せる残高は委託費収入の30%以下
- 積立と繰越の合計が事業活動収入計の5%を超えると、収支計算分析表の提出を求められる
- 令和8年3月の改正で、乳児等通園支援事業が別表1に加わり、標準の監査調書と自己点検票が示された
参考資料
- こども家庭庁「子ども・子育て支援法附則第6条の規定による私立保育所に対する委託費の経理等について」(平成27年9月3日 府子本第254号・雇児発0903第6号、最終改正 令和8年3月31日 こ成保第264号): https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/3a1576c7-071d-4325-8be8-edced6d12ee1/b502ee2b/20260409_policies_kokoseido_193.pdf
- こども家庭庁「「子ども・子育て支援法附則第6条の規定による私立保育所に対する委託費の経理等について」の一部改正について」(令和8年3月31日 こ成保第264号): https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/3a1576c7-071d-4325-8be8-edced6d12ee1/9217784d/20260409_policies_kokoseido_192.pdf
- こども家庭庁「監査に関する情報」(標準的な監査調書・自己点検票): https://www.cfa.go.jp/policies/hoiku/kansa
- 子ども・子育て支援法 附則第6条(e-Gov 法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/424AC0000000065