令和7年10月1日から、保育所等の職員による虐待を受けたと思われる子どもを発見した人には、都道府県や市町村への通報義務があります。 児童養護施設や障害者施設、高齢者施設にはすでにあった仕組みが、保育所・認定こども園・幼稚園・地域型保育事業・認可外保育施設などにも広げられました。

あわせて、こども家庭庁と文部科学省のガイドラインは、これまで使ってきた「不適切な保育」という言葉をやめ、「虐待」を軸に対応を整理し直しています。ただし、虐待に当たらない行為なら放っておいてよい、という意味ではありません。この記事では、こども家庭庁の資料「保育所等の職員による虐待に関する通報義務等について」と、「保育所や幼稚園等における虐待の防止及び発生時の対応等に関するガイドライン」(令和7年8月改訂、令和8年4月一部改訂)にもとづいて、制度と園内の仕組みを整理します。


1. 改正の内容

児童福祉法等の一部を改正する法律(令和7年法律第29号)で、保育所等の職員による虐待について、次の仕組みが設けられました。

仕組み内容
通報義務虐待を受けたと思われる子どもを発見した人は、速やかに都道府県・市町村に通報する
事実確認と措置所管行政庁(都道府県や市町村)が事実を確かめ、子どもの安全を確保する措置を講じる
審議会等への報告所管行政庁は講じた措置を児童福祉審議会等に報告し、意見を受ける
状況の公表都道府県知事が毎年度、虐待の状況をウェブサイトで公表する
国の調査研究国が虐待の防止に関する調査研究を行う

対象の施設・事業

保育所、幼保連携型認定こども園、幼稚園、特別支援学校幼稚部、家庭的保育事業、小規模保育事業、居宅訪問型保育事業、事業所内保育事業、認可外保育施設、一時預かり事業、病児保育事業、乳児等通園支援事業、放課後児童健全育成事業、児童館などが対象です。保護者と離れた環境で子どもを預かる施設・事業が広く含まれます。

通報した人の保護

改正法では、通報が守秘義務違反に当たらないこと、通報した職員が通報を理由に解雇その他の不利益な取扱いを受けないことが定められています。園として、通報をためらわせるような雰囲気や、通報者を探す行為は避けなければなりません。


2. 虐待の4つの類型

改正法は、次の4つを「虐待」と定義しています。

類型内容の例
身体的虐待外傷が生じ、または生じるおそれのある暴行を加える
性的虐待わいせつな行為をする、またはさせる
ネグレクト心身の正常な発達を妨げるような著しい減食や長時間の放置など、職務上の義務を著しく怠る
心理的虐待著しい暴言や著しく拒絶的な対応など、心理的な外傷を与える言動を行う

「不適切な保育」の整理が変わった理由

以前のガイドライン(令和5年5月)は、「不適切な保育」を「虐待等が疑われる事案」ととらえ、その外側に「子どもの人権擁護の観点から望ましくないと考えられるかかわり」を置いていました。改訂後のガイドラインは、改正法の定義を踏まえてこれらの概念を用いず、「虐待」を軸に整理し直しています。

そのうえでガイドラインは、日々の保育で行われる行為は、1つ1つが虐待に当たらなくても、振り返りで改善されなければ、繰り返しによって虐待になりうる、すなわち日々の行為の延長に虐待がある、としています。「虐待に当たらないから問題ない」ではなく、日々の振り返りで改善につなげる流れを作ることが求められています。


3. 虐待かどうかの判断の手順

ガイドラインは、所管行政庁が虐待に当たるかどうかを判断する手順を示しています。

  1. 行われた行為だけで判断できるか:殴る、蹴る、叩く、食事を押し込む、といった行為は、それだけで虐待と判断されます。
  2. 行為の強度・頻度で判断できるか:1回では虐待と言えない行為でも、毎日のように繰り返されていれば虐待に当たりうる。
  3. 行為以外の要素を勘案して判断できるか:保育士等の意図と、子どもの状況・子どもへの影響を勘案します。

ガイドラインの例では、苦手な食べ物を嫌がる3歳児に、口元にスプーンを当てて食べさせる行為を毎日のように繰り返し、子どもが登園を嫌がるようになった事案を、虐待に当たるとしています。1回ごとの行為は小さく見えても、繰り返しと子どもへの影響で判断が変わることを、職員全体で共有しておくことが大切です。


4. 通報を受けたあとの流れ

保育所の場合、所管行政庁は都道府県(指定都市・中核市などはその市)ですが、市町村も子ども・子育て支援法にもとづく指導監督の権限を持っています。ガイドラインでは、次のような連携の例が示されています。

段階主な対応
事実確認の準備通報を受けた都道府県・市町村が互いに一報し、市町村が園への電話・訪問で一次的な状況確認を行う
事実確認都道府県が方針を決め、立入調査などで事実を確かめる。市町村も同行する
判断と指導情報を共有して協議し、都道府県が最終的に判断して、指導等の方針を決める
フォローアップ日頃のフォローは市町村、改善勧告などにもとづく確認は都道府県が行う

園の側では、事実確認に協力できるよう、保育の記録、職員の勤務の記録、事故・ヒヤリハットの記録を日頃から残しておくことが重要です。記録は、いつ・誰が・どの子どもに・何をしたかが後から分かる形で残します。


5. 園内で防ぐ仕組み

ガイドラインは、保育所等に求められる対応として、子どもの権利擁護、日々の保育実践の振り返り、子どもの人権・人格を尊重する意識の共有を挙げています。これを園の仕組みに落とすと、次のようになります。

日々の振り返り

  • クラスごと、職員ごとに、その日の関わりを振り返る時間を設ける
  • 「気になった関わり」を責めずに話せる場を作る(名指しや犯人探しにしない)
  • 振り返りで出た内容を、次の日の保育の工夫につなげる

相談の窓口

  • 職員が園長・主任以外にも相談できる窓口(法人の担当者など)を決め、周知する
  • 市町村の通報・相談窓口の連絡先を、職員室に掲示する
  • 保護者からの相談を受け付ける窓口と、対応の手順を決めておく

研修と体制

  • 年間の研修計画に、虐待の定義と判断の手順、子どもの権利擁護を入れる
  • 職員の配置に余裕がない時間帯(朝夕、午睡、食事)に負担が集中していないかを確かめる
  • 保育士の負担を減らす工夫(ノンコンタクトタイムの確保、ICTでの記録の効率化)も、防止策の1つとして考える

職員の負担を減らす工夫は「保育の ICT 化」、監査で見られる体制の書類は「保育所の指導監査の準備」も参照してください。


6. チェックリスト

  • 職員全員が、虐待の4類型と通報義務を知っている
  • 通報した職員が不利益を受けないことを、園として明文化して伝えている
  • 市町村・都道府県の通報窓口の連絡先を掲示している
  • 日々の振り返りの時間と記録の方法が決まっている
  • 保護者からの相談の窓口と対応の手順がある
  • 年間の研修計画に、虐待の防止と子どもの権利擁護が入っている

7. まとめ

  • 令和7年10月から、保育所等の職員による虐待を見つけた人には通報義務がある。通報者は不利益な取扱いから守られる
  • ガイドラインは「不適切な保育」の概念を用いず、身体的・性的・ネグレクト・心理的の4類型の「虐待」を軸に整理し直した
  • 虐待に当たらない行為も、日々の振り返りで改善する流れを作ることが防止の基本

具体的な通報先と手続きは、都道府県・市町村によって違います。所在地の自治体の案内と、こども家庭庁の最新のガイドライン・Q&Aを確かめてください。

参考資料