保育所の業務継続計画(BCP)は、災害や感染症の流行があっても子どもの安全を守りながら保育を続け、止まったとしても早く再開するための計画です。児童福祉施設の設備及び運営に関する基準第9条の3で、保育所を含む児童福祉施設に策定の努力義務が課されています。

避難訓練や消防計画はすでにあっても、「職員が半分しか来られない日にどの業務を続けるか」「迎えが来ない子どもを何日預かれるか」まで決めている園は多くありません。この記事では、国の「児童福祉施設における業務継続ガイドライン」(令和4年3月、令和3年度子ども・子育て支援推進調査研究事業)にもとづいて、保育所の BCP の作り方を整理します。


1. 基準が求めていること

第9条の3(業務継続計画の策定等)

設備運営基準第9条の3は、児童福祉施設に次の3つを求めています。いずれも努めなければならないという努力義務です。

  1. 感染症や非常災害の発生時に、支援の提供を継続し、非常時の体制で早期の業務再開を図るための計画(業務継続計画)を策定し、それに従って必要な措置を講ずる
  2. 職員に業務継続計画を周知し、必要な研修と訓練を定期的に実施する
  3. 定期的に業務継続計画を見直し、必要に応じて変更する

この規定は、令和4年11月に公布され令和5年4月1日に施行された省令改正で加わりました。障害児入所施設と児童発達支援センターは、第9条の4で策定が義務になっています。

すでにある計画との関係

保育所には、BCP とは別に、すでに次のような計画や義務があります。

計画・義務根拠内容
非常災害に対する具体的計画と訓練設備運営基準第6条計画の策定と訓練に努める。避難と消火の訓練は少なくとも毎月1回行わなければならない
感染症・食中毒の研修と訓練設備運営基準第10条第2項予防とまん延防止の研修、感染症の訓練を定期的に行うよう努める
安全計画設備運営基準第6条の3安全点検・安全指導・研修と訓練を計画にする(保育所の安全計画)
消防計画消防法防火管理者の選任、消防訓練、避難誘導
避難確保計画水防法・土砂災害防止法浸水想定区域や土砂災害警戒区域にあり、市町村の地域防災計画に定められた要配慮者利用施設が作る

BCP はこれらを置き換えるものではなく、災害や感染症で使える人・物・場所が減ったときに、何を優先して続けるかを加えるものです。国のガイドラインも、消防計画・非常災害対策計画・避難確保計画と並べたうえで、BCP の役割を「非常時に優先的に実施する業務を整理し、優先業務を継続できるよう準備する」ことと整理しています。


2. BCP の目標と対象のリスク

国のガイドラインは、BCP の目標を次の4点としています。

  1. 利用する子どもの安全の確保・保護者の安全の確保
  2. 保育を行う職員の安全の確保
  3. 施設機能の維持
  4. 早期復旧・再開

対象とするリスクは、感染症、地震、風水害の3つです。感染症は職員と子どもが少しずつ欠けていく形で長く続き、地震は建物・ライフライン・通信が一度に止まり、風水害はある程度前から予測できます。被害の出方が違うため、同じ BCP の中でもリスクごとに対応を分けて書きます。


3. 事前に決めておくこと

防災組織と職員の参集

国のガイドラインは、非常時の防災組織図と役割分担をあらかじめ決めておくことを求めています。園長が不在のときに誰が判断するか、代わりの順番まで書いておきます。

職員の参集については、次の項目を一覧にしておくと、非常時の体制がすぐに組めるとしています。

  • 職員名
  • 平常時の出勤手段と所要時間
  • 非常時に出勤できるかどうかと、その手段
  • 非常時の出勤にかかる時間の見込み
  • 家族の状況(小さな子どもや介護が必要な家族がいるなど)

電話が使えなくなる場合に備えて、職員の安否確認は携帯メールや安否確認のシステムなど複数の手段を決めておきます。「震度〇以上なら連絡がなくても出勤する」といった参集の基準も書いておくと、連絡がつかない状況でも職員が動けます。

非常時に優先する業務

国のガイドラインは、自然災害時に優先する業務を、生命維持のための業務(排泄・食事・医療的な配慮など)、次いで防寒・避暑対策としています。保護者が帰宅困難で迎えに来られない場合に備えて、宿泊対応も優先業務に入ります。

優先業務を決めるときは、業務を次の3つに分けて一覧にします。

区分保育所での例
続ける業務子どもの安全確保と所在確認、食事・水分・排泄・睡眠、保護者との連絡と引き渡し、情報収集
縮小する業務行事、製作活動、園外活動、通常の書類作成
止める業務新規の見学・面接、研修の受講、急がない会議

出勤できる職員の数ごとに、どこまでの業務を続けるかを決めておくと、当日の判断が速くなります。

臨時休園の判断

国のガイドラインは、保育所が臨時休園などの対応をとるかどうかは、保育の実施主体である市区町村が判断するとしています。市区町村の指示や事前の取り決めに従うよう求めているため、所管の市区町村と、休園や縮小開所の判断の流れを事前に確かめ、BCP に書き込みます。

立地のリスクと避難

国のガイドラインは、自治体のハザードマップで施設のリスクを事前に把握し、避難場所を複数想定しておくこと、避難経路を実際に歩いて、乳幼児を連れて通れるか、夜間でも移動できるかを確かめることを求めています。子どもを連れた避難は想像以上に時間がかかるため、途中で身を寄せる場所も決めておくことが望ましいとしています。

備蓄は3日分

国のガイドラインは、優先業務を最低3日間続けられる量を備蓄するよう示しています。

  • 食料品:日常的に使う食品を多めに買って使いながら入れ替える「日常備蓄」にすると、期限切れを防げる。災害時は少ない職員で対応するため、アレルギーフリーのものにしておく(アレルギー対応の全体は食物アレルギー対応)
  • 医療品:ガーゼ、絆創膏、包帯、体温計、消毒用品、マスクなど。医療的な配慮が必要な子どもは、処方薬の預かりを保護者や医療機関と相談しておく
  • 寝具:一斉帰宅抑制などで、引き渡しまで1日から数日かかる場合に備える

非常用の持ち出し品と、子どもの名簿・緊急連絡先・引き渡しの記録などの重要書類も、すぐ持ち出せる場所にまとめておきます。


4. 保護者への引き渡し

保育所の BCP で特に大事なのが、保護者への引き渡しのルールです。国のガイドラインは、通所の施設では保護者と連絡をとって子どもの引き渡しを進め、引き渡し後の安全確保が十分でない場合は、保護者も施設で一緒に避難行動をとることも重要だとしています。

園で決めておくことは次のとおりです。

  • 引き渡す相手:事前に登録した保護者と代理の人。登録にない人には引き渡さない
  • 確認と記録:引き渡しカードなどで本人を確かめ、引き渡した時刻と相手を記録する
  • 連絡の手段:一斉メールや連絡アプリ、園の掲示など、電話がつながらないときの手段を複数決める
  • 留め置きの基準:どの程度の災害や警報で、迎えが来ても園に留まってもらうか
  • 迎えが来ない場合:何日まで園で預かるか、その間の職員の体制

これらは入園時と年度の初めに保護者に説明し、引き渡しの訓練を年に1回以上、保護者と一緒に行うと、実際に機能するかを確かめられます。


5. 感染症の BCP

感染症の BCP では、職員や子どもに感染が疑われる人が出たとき、感染の可能性が高い人(濃厚接触者など)が出たとき、感染者が出たときの段階ごとの対応を決めます。国のガイドラインは、次の事前の対策を挙げています。

  • 非常時に優先して行う業務の整理
  • マスク・消毒液・手袋などの備品の確保
  • 感染が疑われる症状がある人を分ける場所(ゾーニング)の検討
  • 職員と、子ども・入館者の体調管理(体調チェックシート)

職員が不足したときの応援を、法人内のほかの園や自治体とどう調整するかも決めておきます。日常の感染症対策は、こども家庭庁の「保育所における感染症対策ガイドライン」にもとづいて行います。


6. 研修・訓練と見直し

BCP は、作っただけでは使えません。国のガイドラインは、BCP にもとづく周知・教育と訓練を行い、前回とは違う災害のケースを想定して訓練するとよいとしています。繰り返すことで、職員だけでなく子どもにも災害時の動き方が身につきます。

  • 年間の予定に入れる:毎月の避難訓練のうち数回を、BCP の確認(参集の連絡、引き渡し、備蓄の点検)に使う
  • 机上の訓練:「職員が半分の日に地震が起きた」「保育士の3割が感染で休んだ」など、状況を決めて誰が何をするかを話し合う
  • 見直す:訓練で分かった不足、職員の入れ替わり、連絡先の変更、ハザードマップの改訂にあわせて、年に1回以上見直す

BCP と訓練の記録は、指導監査で確認されることがあります(指導監査の準備)。


7. よくある落とし穴

  • ひな形を埋めただけで終わる:法人名と連絡先だけを書き換えた BCP は、職員が中身を知らず、当日に使われません。優先業務と参集の基準は、職員と一緒に決めます。
  • 職員が全員来られる前提で書いている:職員自身の被災や家族の事情で、出勤できない人は必ず出ます。出勤できる人数ごとの体制を書きます。
  • 引き渡しのルールを保護者が知らない:園の中だけで決めても、保護者が知らなければ迎えの行動は変わりません。入園時と年度初めに説明します。
  • 備蓄の期限と量を確かめていない:年に1回、訓練とあわせて期限と数を点検します。子どもの人数が増えた年は量も見直します。
  • 市区町村との取り決めがない:臨時休園や縮小開所の判断は市区町村が行います。連絡の窓口と判断の流れを事前に確かめます。

まとめ

  • 保育所の BCP は、設備運営基準第9条の3で策定・研修と訓練・見直しが努力義務(令和5年4月1日施行)
  • 非常災害の計画(第6条)、安全計画(第6条の3)、消防計画、避難確保計画は置き換えず、使える人・物・場所が減ったときの優先業務を加える
  • 防災組織、職員の参集の基準、優先業務、臨時休園の判断の流れ、避難場所と経路を事前に決める
  • 備蓄は優先業務を最低3日間続けられる量。食料はアレルギーフリーにし、宿泊用の寝具も備える
  • 保護者への引き渡しは、相手・確認と記録・連絡手段・留め置きの基準を決め、保護者と共有して訓練する
  • 前回と違う想定で訓練し、年に1回以上見直す

参考資料