保育所の食物アレルギー対応は、栄養士や調理担当者の頑張りだけでは続きません。厚生労働省の「保育所におけるアレルギー対応ガイドライン(2019年改訂版)」は、全職員の共通理解の下で組織的に対応することと、医師の診断指示にもとづく生活管理指導表による対応を必須とすることを基本原則に置いています。
ガイドラインは、誤食の主な原因を、配膳ミスや原材料の見落とし・伝達漏れといった人的エラーと、それを誘発する煩雑で細分化された除去の対応、子どもが幼く自己管理できないことだとしています。この記事では、ガイドラインにもとづいて、生活管理指導表の流れ、除去の考え方、誤食を防ぐ段階ごとの確認、緊急時の備えを整理します。
1. ガイドラインの基本原則
ガイドラインは、保育所におけるアレルギー対応の基本原則を次の4つにまとめています。
| 基本原則 | 具体的な内容 |
|---|---|
| 組織的に対応する | アレルギー対応委員会などを設ける。対応マニュアルを作り、役割を分担する。記録にもとづく取組、緊急時・災害時を想定した対策 |
| 医師の診断指示にもとづき、保護者と連携する | 生活管理指導表にもとづく対応が必須 |
| 関係機関と連携する | 自治体の支援の下、地域のアレルギー専門医や医療機関、消防機関などと連携する |
| 安全・安心を優先する | 完全除去対応(提供するか、しないか)。家庭で食べたことのない食物は、基本的に保育所では提供しない |
あわせて、職員が責務と役割に応じて施設内外の研修に定期的に参加することを求めています。国の指導監査でも、食物アレルギーへの対応は生活管理指導表などにもとづいて行われているかが確認されます(指導監査の準備)。
2. 生活管理指導表の流れ
生活管理指導表は、保護者の依頼を受けてかかりつけ医が記入する表で、ガイドラインは「医師と保護者、保育所の重要なコミュニケーションツール」と位置づけています。保育所の生活で特別な配慮や管理が必要となった子どもに限って作成するものです。
ガイドラインが示す流れは次のとおりです。
- 子どもを把握する:入園面接で、アレルギーにより特別な配慮や管理が必要な場合に保護者から申し出てもらう。健康診断や保護者からの申請でも把握する
- 保護者に配付する:保護者と協議のうえ、特別な配慮や管理が求められる場合に配付する
- 医師が記入する:かかりつけ医に記入を依頼する。保護者は保育所での子どもの様子を医師に説明する
- 保護者と面談する:施設長・担当保育士・調理員など関係する職員と保護者が、生活上の配慮や食事の具体的な対応を協議して決める。情報共有への同意も確認する
- 職員で共通理解する:実施計画書などを作り、緊急時を含む対応を職員と嘱託医で共有する。取組の状況を定期的に報告する
- 見直す:年1回以上、生活管理指導表の再提出などを行う。途中で対応が不要になった場合は、保護者と協議・確認のうえで終了する
食物除去の申請について、ガイドラインは入所時または診断時と、年1回以上、必要に応じて更新するとしています。毎年の更新の時期を年間の予定に入れ、提出が遅れている家庭を一覧で追えるようにしておきます。
生活管理指導表には、記載内容を保育所の職員や消防機関・医療機関などと共有することへの同意を確かめる欄があります。個人情報として扱い、保存と廃棄は園の規程にそって進めます(保育の記録と帳簿の保存)。
3. 除去の考え方:完全除去か解除か
部分的な除去はしない
家庭での除去のレベルは子どもによってさまざまで、「混入程度はよい」「何ml までならよい」といった指示もあります。ガイドラインは、こうした個々の家庭での対応をそのまま給食に当てはめると、調理や管理が煩雑になり誤食の遠因になるとして、「完全除去」か「解除」の両極で対応することを基本にしています。
一方で、原因食品が調味料や油脂などにごく少量含まれているだけの場合は、除去の必要がないことが多いともしています。少量の調味料も摂取できない重いアレルギーの子どもについては、その食材を使った料理の給食対応が難しくなる場合があることも考慮します。
初めて食べる食物を出さない
ガイドラインは、保育所で「初めて食べる」ことを避けるよう求めています。家庭で、できれば2回以上、保育所で出す量と同じかそれ以上を食べて症状が出ないことを確かめてから、給食で出すのが理想的だとしています。そのために、入所時に全員の家庭での摂食状況を調べ、献立を事前に保護者に渡して、食べたことのない食物がないか家庭でも確かめてもらいます。
ただし、診断されていない子どもが保育所で初めて発症することもあるため、症状が出たときに慌てない体制も並行して整えます。
解除は書面で
除去していた食物を解除するとき、ガイドラインは生活管理指導表や医師の診断書の提出は求めていません。ただし、口頭のやりとりだけで済ませず、保護者と保育所の間で所定の書類(除去解除申請書)を作って対応することを求めています。症状が出た経験があって除去していた食物を負荷試験などの結果で解除する場合は、家庭で保育所での最大量を複数回食べても症状が出ないことを確かめてから、保育所での解除を進めます。
4. 誤食を防ぐ段階ごとの確認
誤食は、一つの段階の確認だけでは防げません。ガイドラインが挙げる工夫を、給食の流れにそって並べると次のようになります。
| 段階 | 確認すること |
|---|---|
| 献立 | 鶏卵・牛乳・小麦を主菜に使うときは代替の献立を意識する。そば・ピーナッツ・ナッツ類など症状が重くなりやすい食物は、代替できるなら給食であえて使わない。混入を避ける作業動線を献立の段階で考える |
| 発注・納品 | 加工食品は原材料を確かめ、確認のとれないものは使わない。納品業者にアレルギー物質の詳細報告を求めて書類で保管し、原材料が変わるときは改めて提出してもらう。同じ製品でも納入のたびに確かめる |
| 調理 | 作業動線と工程を工夫し、声出しで確認する。調理器具と食品の保管場所を分ける |
| 配膳・搬送 | 食事に目印を付ける。調理担当者どうし、調理担当者と保育士の間で声出し確認を繰り返す |
| 食事の提供 | 食事内容を書いた配膳カードを作り、調理から提供までに2重・3重のチェックをする。アレルギーのある子どもの食器の色を変える |
ガイドラインは、保育所は開所時間が長く、振替休日や時差出勤で職員の入れ替わりが多いため、連絡調整の不備から配膳や喫食時の取り違えが起きやすいと指摘しています。日々の情報共有の方法と対応の手順をマニュアルにし、誰が当番でも同じ手順になるようにします。
給食以外の場面
ガイドラインは、小麦粉粘土を使った遊び、おやつ作り、豆まきなど、食事以外で食材を使うときは注意が散漫になりやすく、遠足や運動会などの非日常のイベントで誤食が起きやすいとしています。イベントの準備に追われて、アレルギー対応の手順を抜いたり忘れたりする例が多いためです。行事の計画書に、使う食材と、アレルギーのある子どもへの対応と担当者を書く欄を設けます。
5. 緊急時の備え
緊急性の高い症状
ガイドラインは、アレルギーのある子どもに緊急性の高い症状が1つでも見られたら、速やかにエピペン®の使用や119番通報をするよう示しています。緊急性の高い症状には、繰り返し吐き続ける、のどや胸が締め付けられる、声がかすれる、犬が吠えるような咳、ゼーゼーする呼吸、唇や爪が青白い、ぐったりしている、などがあります(日本小児アレルギー学会「一般向けエピペン®の適応」から引用)。ガイドラインの参考様式の「症状チェックシート」を保育室と調理室に掲示しておきます。
エピペン®を預かるとき
ガイドラインは、保育所の職員がエピペン®を使うことは、緊急やむを得ない措置として行われるもので、医師法第17条違反にはならないとしています。預かるときの留意点は次のとおりです。
- 子どもの手の届かない、すぐに取り出せるところに保管する
- 15〜30℃での保存が望ましい。冷蔵庫や日光のあたる場所を避ける
- 緊急時の対応内容を保護者と協議し、「緊急時個別対応票」を作る
- 全体管理・発見者による観察・エピペン®の準備・連絡・記録の役割分担を決める
- エピペン®の扱いと役割分担にもとづく動きを、園内研修や定期的な訓練で確かめる
- エピペン®と緊急時に必要な書類一式の保管場所を全職員で共有する
アレルギーの訓練は、安全計画の研修・訓練の中に年間の予定として組み込むと続けやすくなります(保育所の安全計画)。
6. よくある落とし穴
- 家庭の指示をそのまま給食に持ち込む:「少しならよい」といった段階的な対応を給食で再現すると、調理と配膳が細分化して誤配が増えます。給食は完全除去か解除の両極にそろえます。
- 生活管理指導表の更新が止まる:入所時に出したきりで、年1回以上の見直しがされていない例があります。更新の時期と未提出の家庭を一覧で管理します。
- 解除を口頭で受ける:保護者から「もう食べられます」と言われて翌日から出すと、記録が残らず、職員間の伝達も漏れます。除去解除申請書を受け取ってから切り替えます。
- 納品の原材料を最初の1回しか確かめない:同じ製品でも原材料が変わることがあります。納入のたびに確かめます。
- 行事の日に手順が抜ける:節分・誕生会・遠足など、いつもと違う日ほど誤食が起きます。行事ごとに確認の担当を決めます。食事中の誤嚥など、アレルギー以外の事故防止は保育中の事故防止でまとめています。
まとめ
- 基本は厚生労働省の「保育所におけるアレルギー対応ガイドライン(2019年改訂版)」。組織的な対応と生活管理指導表にもとづく対応が必須
- 生活管理指導表は、把握・配付・医師の記入・面談・共通理解・見直しの流れで使う。食物除去は入所時または診断時と、年1回以上更新する
- 給食は「完全除去」か「解除」の両極で対応する。保育所で初めて食べる食物は出さない
- 解除は口頭で済ませず、除去解除申請書を作る
- 誤食は献立・納品・調理・配膳・提供の各段階と、給食以外の行事で重ねて防ぐ
- エピペン®の保管、緊急時個別対応票、役割分担と訓練を事前に整える
参考資料
- 厚生労働省「保育所におけるアレルギー対応ガイドライン(2019年改訂版)」: https://sukoyaka21.cfa.go.jp/media/tools/s04_nyu_gail029.pdf
- こども家庭庁「保育所におけるアレルギー対応ガイドラインのご案内」: https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/e4b817c9-5282-4ccc-b0d5-ce15d7b5018c/978a376c/20231016_policies_hoiku_46.pdf
- こども家庭庁「保育所におけるアレルギー疾患生活管理指導表」: https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/e4b817c9-5282-4ccc-b0d5-ce15d7b5018c/1bd0041a/20231016_policies_hoiku_38.pdf
- こども家庭庁「保育」: https://www.cfa.go.jp/policies/hoiku