保育所の記録と帳簿の保存期間は、1本の法律でまとめて決まっているわけではありません。保育の記録は子ども・子育て支援法の運営基準、会計は社会福祉法や法人税法、職員の書類は労働基準法と、書類の種類ごとに別の法令が年数と起算日を定めています。

そのため「保育所の書類は5年」と一律に覚えていると、社会福祉法人の会計帳簿(10年)を早く捨ててしまったり、逆に不要な個人情報を長く抱え込んだりします。この記事では、書類ごとの保存期間と起算日を一覧にし、電子での保存と廃棄の進め方を整理します。記録の作成そのものを ICT で効率化する方法は保育所の ICT 導入でまとめています。


1. 帳簿と記録を備える根拠

児童福祉施設としての帳簿

児童福祉施設の設備及び運営に関する基準(設備運営基準)第14条は、児童福祉施設に、職員・財産・収支・入所している者の処遇の状況を明らかにする帳簿を整備するよう定めています。この条には保存期間の定めがなく、年数は次に挙げる各法令で決まります。

特定教育・保育施設としての記録

施設型給付・委託費を受ける保育所は、子ども・子育て支援法の「特定教育・保育施設及び特定地域型保育事業並びに特定子ども・子育て支援施設等の運営に関する基準」(運営基準)にも従います。第34条は次の2つを分けて定めています。

  • 第1項:職員・設備・会計に関する諸記録を整備する(保存期間の定めはない)
  • 第2項:保育の提供に関する次の記録を整備し、その完結の日から5年間保存する
    1. 保育の提供に当たっての計画(保育所保育指針にもとづく全体的な計画・指導計画など)
    2. 保育の提供の記録(第12条:提供日、内容その他必要な事項)
    3. 保護者の不正受給に関する市町村への通知の記録(第19条)
    4. 苦情の内容等の記録(第30条第2項)
    5. 事故の状況と事故に際して採った処置の記録(第32条第3項)

小規模保育などの特定地域型保育事業にも、第49条で同じ内容が定められています。

なお、運営基準は市町村が条例で定める基準のもとになる府令です(子ども・子育て支援法第34条第2項・第3項、第46条第2項・第3項)。市町村の条例で、保存期間を5年より長く定めている場合があります。自園の所在する市町村の条例を確かめてから、園の規程に年数を書きます。


2. 書類ごとの保存期間

書類保存期間起算日根拠
保育の計画、保育の提供の記録、市町村への通知の記録、苦情の記録、事故の記録5年その記録の完結の日運営基準第34条第2項(地域型保育は第49条第2項)
保育所児童保育要録(原本等)子どもが小学校を卒業するまで(望ましい)作成時から厚生労働省「保育所保育指針の適用に際しての留意事項について」(平成30年3月30日 子保発0330第2号)
社会福祉法人の会計帳簿と事業に関する重要な資料10年会計帳簿の閉鎖の時社会福祉法第45条の24第2項
社会福祉法人の計算書類(貸借対照表・収支計算書)と附属明細書10年作成した時社会福祉法第45条の27第4項
労働者名簿5年(当分の間は3年)死亡・退職・解雇の日労働基準法第109条・附則第143条、同法施行規則第56条
賃金台帳5年(当分の間は3年)最後の記入をした日(支払期日が遅ければその日)同上
雇入れ・退職に関する書類5年(当分の間は3年)退職または死亡の日同上
青色申告法人の帳簿と、決算・取引に関する書類7年事業年度終了の翌日から2か月を経過した日法人税法施行規則第59条

補足が3つあります。

  • 労働関係の書類は、労働基準法第109条の本則は5年ですが、附則第143条の経過措置で当分の間は3年とされています。経過措置はいずれ外れる前提の規定なので、園の規程は5年で書いておくと、改正のたびに見直す手間が減ります。
  • 法人税の帳簿は、株式会社などの青色申告法人の場合の年数です。社会福祉法人は収益事業を行う場合にのみ法人税の申告が要ります。
  • 公立保育所は、自治体の文書管理の規程に従います。

年数の決まっていない帳簿

運営基準第34条第1項の職員・設備の記録(勤務表、職員の資格証の写し、設備の点検記録、避難訓練の記録など)や、設備運営基準第14条の帳簿の多くは、保存期間が法令で決まっていません。監査では前回の監査以降の書類を確認されることが多いため、監査の周期より長く、最低でも5年を園の規程で定めておくと、説明に困りません。監査の準備全体は保育所の指導監査の準備で整理しています。


3. 電子で保存する

法令上は電子で保存できる

設備運営基準第88条の11と運営基準第62条第1項は、これらの府令で書面で行うことが定められている記録・作成・保存などを、書面に代えて電磁的記録で行えるとしています。保育所児童保育要録も、前述の留意事項の通知で、情報通信技術を使った作成・送付・保存は現行の制度上も可能と示されています。社会福祉法人の計算書類なども、社会福祉法第45条の27第3項で電磁的記録で作成できます。

保護者に交付する書面(重要事項の説明など)を電子で渡すときは、運営基準第62条第2項により、保護者の承諾を得る必要があります。

電子保存で決めておくこと

項目決めること
見読性監査や開示の請求のときに、画面や印刷ですぐに見せられるか
改ざん防止誰がいつ作成・修正したかの記録(履歴)が残るか。確定した記録を後から書き換えられないか
バックアップ保存場所が1か所だけになっていないか。業者のサービスが終わるときにデータを取り出せるか
権限子どもの記録・職員の記録・会計を、見る必要のある人だけが見られるか
保存期間の管理記録ごとに「完結の日」と「廃棄してよい日」が分かるか

保育の ICT システムを選ぶときは、契約終了時にどの形式でデータを取り出せるかを必ず確かめます。保存期間の途中でシステムを乗り換えると、古い記録を見られなくなるおそれがあります。

電子取引(請求書や領収書をメールやウェブで受け取るもの)のデータは、法人税の申告をする法人の場合、電子帳簿保存法により電子のまま保存する必要があります。印刷して紙で残すだけでは足りない点に注意します。


4. 廃棄の手順

不要になった個人データは消す

個人情報保護法第22条は、個人データを利用する必要がなくなったときは遅滞なく消去するよう努めることを求めています。保育所の記録には、子どもの発達や家庭の状況、職員の健康に関する情報など、漏れたときの影響が大きい情報が多く含まれます。保存期間を過ぎた記録を残し続けることも、リスクになります。

年に1回の廃棄の流れ

  1. 保存期間表を作る:上の一覧を土台に、自園の市町村の条例と法人の規程を反映した表を作ります
  2. 年度末に対象を洗い出す:「完結の日」から保存期間が過ぎた記録を、書類ごとに一覧にします
  3. 例外を除く:訴訟・事故の調査・苦情の対応が続いている記録、監査で改善報告を求められている記録は、終わるまで残します
  4. 廃棄する:紙は溶解処理か裁断、電子データは削除とバックアップからの消去まで行います。外部の業者に頼む場合は、廃棄証明をもらいます
  5. 廃棄の記録を残す:何を、いつ、誰が、どの方法で廃棄したかを記録します

廃棄前に確かめるチェックリスト

  • □ 市町村の条例に、運営基準より長い保存期間が定められていないか
  • □ 社会福祉法人の会計の資料を、5年で捨てようとしていないか(10年)
  • □ 保育所児童保育要録の原本を、子どもの小学校卒業前に捨てようとしていないか
  • □ 事故・苦情の記録で、対応が終わっていないものが混じっていないか
  • □ 電子データのバックアップにも、同じ記録が残っていないか

5. 実行時の落とし穴

「完結の日」を作成日と取り違える

運営基準の5年は、記録を作った日ではなく、その記録の「完結の日」から数えます。何をもって完結とするか(年度の終わり、子どもの退所、事故の対応の終了など)は記録の種類で変わるため、市町村に確かめて、書類ごとに規程に書いておきます。

事故の記録を5年で機械的に捨てる

重大な事故の記録は、損害賠償の請求や検証が長く続くことがあります。対応が終わるまで残し、終わった日を「完結の日」として扱います。事故の予防と記録のとり方は保育所の安全計画で整理しています。

委託費の支出の証拠書類を先に捨てる

委託費の使途は、会計帳簿と支出の証拠書類で説明します。積立資産の取崩しや繰越の協議の記録も含めて、会計の年数(社会福祉法人なら10年)に合わせて残します。委託費の使途の決まりは委託費の使途制限と弾力運用でまとめています。

紙と電子の二重管理で、どちらが正本か分からなくなる

紙で作ってスキャンした記録、電子で作って印刷した記録が混じると、廃棄の判断ができません。書類ごとに正本をどちらにするかを決めます。


6. まとめ

  • 保存期間は書類の種類ごとに別の法令で決まる。保育の計画・提供・苦情・事故の記録は完結の日から5年(運営基準第34条)
  • 社会福祉法人の会計帳簿と計算書類は10年、労働関係の書類は5年(当分の間は3年)、青色申告法人の帳簿書類は7年
  • 保育所児童保育要録は、子どもが小学校を卒業するまで保存することが望ましい
  • 市町村の条例で長く定めている場合があるため、自園の条例を確かめてから規程を作る
  • 記録は電子で保存できる。見読性・改ざん防止・バックアップ・データの取り出しを決めておく
  • 保存期間を過ぎた個人データは、年に1回の手順で消去し、廃棄の記録を残す

参考資料